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◆2021-12-02
第4回人間講座を開催しました。

令和3年度第4回人間講座(視聴期間2021115()14()、オンデマンド映像配信にて)を開催しました。

今回の人間講座では、国立民族学博物館の卯田宗平氏を講師として「動物利用の違いを捉える―中国と日本の鵜飼を切り口に―」と題してお話をいただき、多くの方にご視聴いただきました。卯田氏は中国で研究調査を重ねてこられ、中国と日本の鵜飼について人間と野生動物の関わりと、両国の食文化との関係性について研究を進めていらっしゃいます。

本講座では、鵜飼という事例を切り口に、中国と日本の動物利用の違いとその背景要因を読み解くものでした。具体的には、まず鵜飼の歴史を簡単に述べたうえで、中国で継続されている定点調査と広域調査の結果を報告されました。そのうえで、鵜飼が生業として成立するかどうかや、鵜を家畜化するか否かといった切り口から、日中両国の違いについて説明され、双方に違いが生じる理由をお話いただきました。

我々の社会のなかには、さまざまな家畜動物がいますが、卯田氏はそのなかでも生業の手段として利用される動物に関心をもたれています。もともと人間は生業の技術を介して自然環境と対峙しています。今回の講座で取りあげた鵜飼い漁では、鵜は魚を獲るための技術(手段)です。このような生業活動において、生産性を向上させようとしても、手段である鵜を機械化するわけにはいきません。よって、漁師たちは所有する鵜を巧みに飼い慣らし、漁に適した行動特性を獲得させなければなりません。こうした漁師たちの技術や知識に関心があり調査を続けておられます。

中国と日本の鵜飼い漁には、手縄を使うかどうかという違いがあります。中国では使用しません。それは、中国の河川は全体的に流れが穏やかでありカワウが流されることがないからです。くわえて、手縄を使うと漁で利用できる鵜の数が限られてしまい、生業として鵜飼をおこなっている漁師からみると漁の効率が下がるからです。さらに、中国ではカワウを人工繁殖させているため、幼いころから人間に慣れており逃げていくこともありません。一方、日本では河川の流れが全体的に速いためウミウが流されてしまう恐れがあります。くわえて、漁で野生の個体を使用しているため逃げてしまう可能性もあります。よって日本では手縄を使う場合が多いそうです。

鵜飼い漁が生業として成り立つかどうかに関しては、漁獲物の流通や消費の側面から説明がありました。中国での調査中に鵜飼い漁で捕獲された魚をすべて調べてみると、じつに多くの魚種が確認できたそうです。そのなかで半分以上の魚種が市場で農民に販売され、残りの小型魚も養殖業者に販売されたり、鵜の餌にしたりすることができます。つまり、鵜飼い漁で捕獲された魚はすべて利用できます。これは、湖の周辺や都市部において淡水魚を食する文化が根付いており、多くの淡水魚に商品価値があるからです。すなわち、中国では淡水魚の食文化が鵜飼い漁を下支えしています。一方、日本では商品価値のある淡水魚が少なく、鵜飼い漁で多様な魚種が捕れたとしても買い手を確保できません。よって日本では多様な魚が捕れる鵜飼い漁が生業として成りたたないということです。

動物の生殖介入に関しても日中両国で違いがあります。中国では鵜の生殖に介入していますが、日本では鵜を繁殖させたという記録はありません。この違いは鵜の捕獲の難易差から説明ができます。日本の場合、毎年渡りをくりかえすウミウを決まった場所で確実に捕獲できる技術があります。したがって、わざわざ繁殖させるという動機は生まれにくいそうです。一方、広大な面積をもつ中国では野生のカワウの捕獲が容易ではありません。よって、中国の漁師たちはいったん入手したカワウを手元に置きつづけ、そこで繁殖させることが重要になってきます。捕獲の難易差が生殖介入の有無に大きな影響を与えていることがわかりました。

最後に、卯田氏は対象を相対的にみることで、双方の違いとその違いが生じる背景としての文化や環境が見えてくるといい、実は身近な日本の事例も海外と比較して見つめなおすと面白い現象が多いと指摘されました。

卯田氏.JPG鵜飼.JPG

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