9月10日(金)~19日(日)、(株)イーグレット・オフィスの須藤明子氏を講師にお迎えし、令和3年度第3回人間講座「野生動物のまもり方~カワウの数を管理してともに暮らす~」をオンデマンドにより開催し、多くの方にご視聴いただきました。
須藤氏は、野生動物が好きで、野生動物や自然を守る仕事がしたいという思いで獣医学科に進み、「大阪府立大学野鳥の会」「日本イヌワシ研究会」などの活動をする中で、独学で野生動物を発見する力や識別する能力を身につけました。(株)イーグレット・オフィスの主な事業内容は、野生動物の世界を伝えること、そして今回のテーマでもある野生動物と人間の共存に向けての提案をすることです。
今回の講演は、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ竹生島での取り組みです。1970年終わり頃、0羽だったカワウが1982年に再繁殖して急増し、2008年には世界で最もカワウの生息密度が高くなり、深刻な被害になりました。
カワウの被害は大きく分けて二つです。一つはカワウが、放流魚や経済価値の高いアユを食べることで起きる内水面での漁業被害、もう一つは枝葉の折り取りと大量の糞による植生被害や生活被害です。急に増えたことで対応する術がなく、人との軋轢が生じました。
カワウは、環境汚染や河川改修により餌である魚が激減し、一時は絶滅危惧種指定が必要なほどに減少しましたが、有害物質の規制、放流魚や外来魚により餌が増えたこと等で急激に増加しました。そこで滋賀県は、銃器による捕獲に力をいれましたが、減少に転じることはありませんでした。
須藤氏は、2003年に滋賀県のカワウに関わるようになり、モニタリングがうまくいっていないこと、計画的な捕獲ができていないことが原因だと考えました。
そして2004年、滋賀県の水産課による事業「プロジェクトKSS(KAWAU Sharpshooting)」 が始まり、モニタリングの方法を変え、専門的・職能的捕獲技術者(プロ)が科学的・計画的な捕獲を行い、成鳥を選択的に捕獲したことにより、個体数の削減効果が高くなりました。
2009年からは本格的に事業化をして空気銃による精密狙撃を実施し、インターバルとゾーニングによりカワウの繁殖をコントロールすることで、継続的に効率の良い捕獲ができました。
鵜類による被害は、世界中で問題になっていますが、KSSの活動は大規模かつ明確に数を減らすことに成功した世界初の成功事例になります。
須藤氏は2003年から2019年まで、科学的な根拠に基づいて適切な捕獲をすることによって個体数を減らして被害を減らし共存へと持っていく、そのための捕獲という位置づけで考えてきました。
非常に被害が深刻だった時点では、被害を受けている人とカワウの共存はNGという状況でしたが、漁業者の中には、ある程度被害が軽減されてくれば共存を受け入れると考えを変えてきた人も出てきたようです。これは今後、人間とカワウが共に暮らしていくための大きな前進と捉えていいのではないかと須藤氏はお話をされました。
KSSは2019年で終了し、昨シーズンからハンターによる捕獲に戻っているようです。昨年と今年、竹生島のカワウが増えてきたので、今後の動向に注目していきたいとまとめられました。